favyが展開する会員制『29ON』では、肉と日本酒のペアリングを提唱しています。季節やイベントごとに、どんな日本酒を揃えるかもお店のこだわりの一つ。
今回は『29ON』1週年イベントの際に、限定ラベル日本酒をご提供いただきました「加茂錦」の田中様へ、1週年限定ボトル誕生の秘話や、肉と日本酒のペアリングをどのように解釈されているか、また新進気鋭の蔵元としてどの様な取組をされているのかをお伺いしました。
ー「加茂錦」さんには『29ON』の1週年を記念して限定ボトルをご提供いただきましたね。
(田中)はい。酒屋さんである「いまでや」の宮代様より”肉に合わせられるようなお酒”というお題でお問い合わせをいただきました。当蔵では多種多様なタイプのお酒を試作しており、こういった試験醸造したお酒は、特約店様の頒布会や特別企画で使っていただくことも少なくありません。今回お話をいただいた際に、ちょうど肉に合うお酒として思い当たる銘柄があったため、こちらを提案しました。
(下田)「いまでや」さんから「加茂錦」さんが試験的に醸造した限定ボトルがあるという話を聞いたときはすごくワクワクしました。で、「面白そうだからすぐに頂戴!」ってトントン拍子に話が進んで。結果、『29ON』の味濃い低温調理した肉とベストマッチして大成功!しかも、ラベルも手書きでデザインしていただき、イベントを楽しみにしていたお客様からも特別感があるということで大反響でした。
(田中)あのラベルですが、実は裏話があって…。本当は手書きではなくて判子を使用しなければいけなかったのですが、『29ON』さんのイベントに間に合わせるために蔵の作業予定を急遽変更し、ラベルも手書きで作らせていただくことになったんです。
(下田)そんな秘話があったんですね。イベント用に無理言って対応していただきありがとうございました。
(田中)実は今回の熟成酒をお肉に合わせるお酒として提供する前に、我々でも「本当に肉と合うか?」のペアリングを簡易ながら試したんです。百貨店でお肉を買い占めて、全部で20種類くらいあったかと思います。その中で、脂がのっててトロッとしたタイプのお肉と一番合ったので、これなら限定イベント用に提供しても問題ないなと判断し、瓶詰めしてお出しすることに決めました。
(下田)そこまで試していただいたとは!ありがとうございます。
(田中)実際にはどんなメニューに合わせたんですか?
(下田)まさしくお試しいただいた通りで、サーロインに合わせました!そこに甘めのユッケたれをお肉と日本酒の接着剤としてかけて。”甘”と脂のコクがふわっと香って来るんですけど、そこでちょっとだけ濃いな〜って言うときに、お酒のピチピチっとした酸がすごく効いてきて。生酒の熟成酒だから、酸も残っていて、コクもあってまろやかだから、口に残った脂を切ってくれるんですね。
ー「加茂錦」さんから限定的に出荷されている「荷札酒」はどのようなコンセプトで醸されているのですか?
(田中)イベントで提供させていただいた熟成酒は、肉にあわせてガツンと濃醇な味わいでしたが、普段はアルコール感の少ないキレイで飲みやすいお酒を作ることが多いです。自分自身が「アルコール感」に敏感だからというのもありますし、ベンチマークとして掲げている先輩の方々のお酒を参考にさせていただく場合もあります。
もともと実家の蔵で醸造を継ぐつもりはなかったのですが、父が試飲していた「獺祭」「新政」「十四代」「磯自慢」「飛露喜」「美丈夫」などのお酒を初めて味わったときに衝撃を受けて。
地元新潟のお酒と全く違うカラーを出す銘柄たちにすごく興味を持って、徐々に酒作りにのめり込んでいったんです。
(下田)もともと「加茂錦」さんのお酒はイベントで使わせていただく前からすごく注目していました。新潟らしくなくて、尖ってるな、と。実際、新潟で伝統的に作られる所謂淡麗辛口のお酒は、あまり作ろうとは思わないんですか?
(田中)そんなことはありません。自分が好き(=飲みやすい)と思う日本酒をつい作る傾向があるんですが、醸造の方針として、まずは色々な手法を試している段階です。
自分はまだ酒作りを始めたばかりなので、先人の真似をすること・指標にすることが大事だと思っています。新潟の伝統的なもの、最近トレンドの甘系のもの、蔵で熟成させたもの、今はまだ作ってないですが生酛山廃など、全部試してみたいと思っています。
たとえば、1周年イベントでお出しした酒も、カプロン酸エチル主体の樽を1年熟成させてとっておくのは普通有り得ないことなんです。でも少し遊ぶと味わいが変わって、突然パッと華開くことがあるので、敢えてチャレンジしています。
日本酒の良し悪しは最終的に『飲む人にとって美味しいかどうか』なのですが、実は「お酒の味を最も左右するのは、誰と飲むかだ」と大先輩、醴泉の山田社長に教えて頂きました。心から楽しく飲めるお酒が最もおいしいという事です。私もそう思います。
食の場を演出する下田さん達のお仕事はお酒文化にとって、とても重要なことだと思っています。それを少しでもお手伝いできるお酒でありたいと思います。
品評会で良い点数をとる日本酒が良いという考え方もありますが、昔ながらのアルコール感が強め、熟成感のあるお酒を日常酒として好む方も少なくありません。色々な好みがありますので、醸造家としては多様な嗜好や気持ちを理解できる様になりたいと思っています。いまはとりあえずトライ&エラーを繰り返して、手探りながらお客様に喜んでいただけるお酒を造りたいという一心です。
(下田)蔵の色を出して行くか、敢えて個性を伸ばさずに少量多種で作って行くのか、方針って決めてるんですか?
(田中)その手のことはよく聞かれます。個性とかオリジナリティーとか、どこから生まれるものか、今は良く分かりません。意図して作られるものでは無いような気がしています。自分が感じる味覚の世界をどこまで広く・深くできるか、自分で意識できない味は表現出来ませんので、そこが始まりだと思いますし、終わりも無い気がします。
たとえば今回のイベントのお話のように、お食事とのペアリングなど知りたいことは多いので、醸造家としてそういった経験をさせていただくことはとても感謝しています。何本ものお酒を仕込めること、皆さんに品評をいただけること、感じ方を教えていただくことを今後も大切にしていきたいです。
(下田)面白いですね。手探りという点では私たちも一緒で、favyは唯一無二の食マーケティングの専門企業として、日々新しい取組を進めています。ビジョンとして「飲食店が簡単に潰れない世界を創る」を掲げており、外食の市場を活性することも役目の一つです。今後も、蔵元さんや食品メーカーさん、酒屋さん、飲食店さん、そして外食ユーザーさんと対等な関係を築きながら、一緒に外食産業を盛り上げるための面白い取組を進めていきたいなと思っています。
ーありがとうございました!
■加茂錦酒造株式会社 公式HP
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※蔵見学および蔵での直接販売は行っておりません。
29ONでは、日本酒に特化したYouTubeチャンネルも運営しております。普段お店で提供している日本酒を中心に紹介する動画です。興味がある方は、ぜひご視聴ください。